流通チャネルの力関係

流通チャネルの力関係を理解すると、メーカーの営業担当者がするべきことが見えてきます。

ID-POSを商談で活用

消費財・食品・飲料メーカーの営業担当者向け

・流通チャネルの力関係を測る3つの視点
・各流通チャネルの特徴
・流通の変化

  ECチャネルの台頭
  ECチャネルの死角
  総合スーパーに専門店がテナント出店
  ドラッグが食品スーパーから顧客奪取
  食品スーパーが中食を強化
  コンビニは更なる利便性を追求
・まとめ

流通チャネルの力関係を測る3つの視点

上の図は、商圏の広さ品揃えの豊富さ購入してから消費するまでの時間の長さという3つの軸に流通チャネルをあてはめるたものです。

商圏の広さはザックリと「店舗が大きい=商圏が広い」と理解してください。店舗が小さければ固定費が安く済むので小さな商圏でも出店が可能ですし、大きい店舗でたくさんのお客様を集める前提であれば大商圏でのビジネスが前提となります。
品揃えの豊富さは店舗で取り扱うカテゴリ数とカテゴリあたりの取り扱い商品数を掛け算したイメージです。
購入してから消費するまでの時間の長さは、買い物目的です。緊急購買などのように購入してすぐに使う目的で利用されることが多いのか?今すぐに使用する目的ではない購入が多いのか?という視点です。流通チャネルの力関係を測るうえで重要だと考えています。

各流通チャネルの特徴

コンビニエンスストアは、小商圏で品揃えを絞った店舗運営が特徴ですが、購入してから消費するまでの時間が最も短いチャネルであるということも押さえておきたいポイントです。「いますぐ食べたい」と思っておにぎりを買う…「雨降ってきたから今すぐ使いたい」と思ってビニール傘を買う…訳で、来週食べようと思ってサンドウィッチを買うお客様はいないでしょう。日本でコンビニが強いのは小商圏&購入してから消費までの時間が短い商品を中心に展開している(そのかわり品揃えの豊富さは犠牲にしている)から強いのでしょう。

食品スーパーは、コンビニよりもやや広い商圏でビジネスを展開し、コンビニよりも豊富な品揃えを展開しています。購入してから消費するまでの時間はコンビニに次いで短いです。コンビニが「今すぐ食べるおにぎり」を購入…であれば、食品スーパーは「今晩の食材を購入する」といったイメージでしょうか。

ドラッグストアは、食品スーパーと似たような立ち位置であると考えてください。食品スーパーよりもやや広い商圏で、購入してから消費するまでの時間もコンビニや食品スーパーと比較するとやや長めの商材が多いです。トイレットペーパーがなくなりそうだから買う…といったイメージでしょうか。商材によっては購入してからすぐに使用するものも多いですが、あくまでもストア全体と考えてください。

総合スーパーやデパートは、広い店舗(広い商圏)で豊富な品揃えを展開しているのが特徴です。購入してから消費するまでの時間も長めのカテゴリが多いです。来週の旅行に来ていく服を買う…知人へのプレゼントを買う…といったイメージでしょうか。

専門店は、品揃えを一部のカテゴリに特化したチャネルです。一部カテゴリに特化することで大商圏でなくても可能なビジネス規模に収めながらも、特化したカテゴリにおいては総合スーパーよりも品揃えが豊富です。ドラッグストアも専門店のひとつですが、最近のドラッグストアは取扱いカテゴリが幅広いことからあえて分けて記載しています。

ECは、日本中もしくは世界中という広い範囲でビジネスを展開していますから「商圏」という概念を無視した流通チャネルです。また、品揃えもリアル店舗とは比べものにならない豊富さですが、配送の関係上購入してから消費するまでの時間は長いという特徴があります。

流通の変化

これまで記載したことは現状における流通チャネルの特徴です。上記のような特徴を踏まえて現在流通で起きている変化について説明します。

ECチャネルの台頭
ECチャネルの台頭により大きく影響を受けたのは、品揃えの豊富さを売りにしてお客様を惹きつけてきたデパートや総合スーパーです。「ウリ」だったはずの品揃えで圧倒的にECに劣ってしまったことで窮地に追い込まれてしまいます。加えて、少子高齢化により商圏は縮小傾向にあることから、外的要因と社会構造要因の2つの点から苦戦を強いられています。デパートはインバウンドの恩恵や、高級感・安心感といった別の強みも活かせますが、総合スーパーは厳しい状況です。

ECチャネルの死角
ECチャネルには商圏という概念がありませんのでデパートや総合スーパーに限らず全ての流通チャネルにとって脅威となり得ます。敵なしのように思われるECですが、配送の関係上購入してから消費するまでの時間がかかるという特徴から2つの死角があります。
1つ目の死角は購入してから消費するまでの時間が短いカテゴリが苦手であるということです。
「今すぐ食べたい」と思ったらECではなくコンビニや食品スーパーで買うでしょうし、「日差しが強くなったから日焼止めを買おう」と思ったらECではなくドラッグストアで買うでしょう。
最近話題の食品デリバリーサービスは、このような弱点を補うサービスです。
2つ目の死角は配送です。アメリカではアマゾンの強みは配送であると言われますが、日本では配送に対し不満に思っている人が多いようです。ECも食品デリバリーサービスも、配送の質の低さは信頼感・安心感低下に繋がる可能性があるでしょう。

総合スーパーに専門店がテナント出店
総合スーパーに訪れた誰しもが思うのは「食品フロア以外ほとんどお客様がいない(辛うじて化粧品売場には多少人がいる)けど…これで潰れないのだろうか?」でしょう。かつての総合スーパーは「何でも売っているけど何にも欲しいものがない」と揶揄されるくらい魅力の薄い売場が多かった印象です。ところが最近は、衣料品や家電などテナントを積極的に誘致しています。専門店はそのカテゴリにおけるプロですので、各カテゴリの専門店を集めて売場の魅力度を高めることでストア全体の集客に繋げようという考えです。

ドラッグが食品スーパーから顧客奪取
何故ID-POS(idpos)分析が必要か?でも触れましたが、ドラッグストアは食品を中心とした品揃え拡充に取り組んでいいます。少子高齢化による小商圏化に対応するためにはひとりのお客様にあらゆるカテゴリを購入してもらうことが必要ですので、購入率・購入頻度が高い食品カテゴリに注力をしています。上記の図で言うと、購入してから消費するまでの時間が短いカテゴリに注力をすることで客数を増やそうとしている訳です。更に言うと、ドラッグストアはそうやって集めたお客様に化粧品や医薬品を併買してもらうことで優良顧客に育成しようというストーリーを描いています。

食品スーパーが中食を強化
ドラッグストアとの顧客の奪い合いに巻き込まれている食品スーパーですが、中食を強化することでドラッグストアに顧客を奪われないようするとともにコンビニから顧客を奪おうと試みています。ドラッグストアは食品カテゴリを集客の為のカテゴリと位置付けていますので低価格・低粗利で販売を強化しています。これに対抗するには店内調理品など付加価値商品を強化することで粗利確保を狙おうという考えです。

コンビニは更なる利便性を追求
コンビニエンスストアは公共サービス、宅急便の受け取り、自治体との災害協定など利便性や社会インフラとしての地位を確立していますが、最近ではRFID(電子タグ)を利用した無人店舗の実験など更なる利便性を追求しています。

まとめ

上の図とこれまでの説明を見て分かる通り、流通業の顧客の奪い合いは基本的には隣り合ったチャネル間で起きます。流通チャネルの力関係が分かっていると、流通業が行う新たな取り組みの意図を理解しやすいはずです。メーカーの営業担当者は、小売業の取り組み意図を理解したうえで提案を行うことで商談の成約率が高まるでしょう。